【2】古都と湖都をめぐる(後編)
初日はこちら
大津へ来てみて、この街の観光都市としてのポテンシャルがかなり高いことに気づく。
日本一でかい湖を活かした遊覧船やレイクアクティビティをはじめ、周辺には昨日訪れた比叡山延暦寺などの歴史に名を残す寺社仏閣も多く、さらには関西の奥座敷であるおごと温泉もある。
ただ関東圏で思ったより知名度が低い気がするのは、やっぱり京都、お主が隣にいるからなのでは……
などと思いながら、東横インで朝食を食べている京都・滋賀旅行2日目の朝である。
東横インに泊まったのは高校生の時以来で、ホテルを決める時に完全に値段で決めたので朝食にはほとんど期待をしていなかったけど、思いのほかちゃんとバランスの取れた食事を提供してくれるので大変ありがたい。
さらに道路側に面したカウンターの座席からは、道路のど真ん中を走る京津線の列車を間近に眺めることができるので、個人的には満足感の高いホテルだった。
今日は、石山坂本線に乗って、大津の街をめぐります。(CV:石丸謙二郎)
ホテルをチェックアウトしたら、びわ湖浜大津駅へ行き、「京阪電車 びわ湖チケット」を(700円)を購入して早速電車に乗り込む。
説明しよう!このチケットは石山坂本線(石坂線)と京津線の電車が乗り降り自由になるだけでなく、この後訪れる予定の施設を含む約40の施設で割引などの特典が付くので、大津めぐりには必須のアイテムなのである。
びわ湖浜大津駅からひと駅、そこから徒歩10分のところに三井寺はある。
春は関西で一番早く桜が開花する場所だそうだが、青々と葉の繁る今の時期も生命力に溢れとても美しい。
歴史的には延暦寺と対立して宗徒に何度か焼き討ちにされたり、豊臣秀吉の怒りに触れ「お前領地没収な」と言われて廃寺同然になったり(この時秀吉が三井寺にあった弥勒堂を移築したのものが、昨日訪れた延暦寺の釈迦堂である)と、こちらもかなりの苦難の歴史を辿っているが、現在はそんな雰囲気を感じさせない静かで落ち着いた佇まいである。
またこのお寺の梵鐘は、前述の延暦寺とのいざこざの際、比叡山の門徒だった武蔵坊弁慶が三井寺から奪った戦利品として延暦寺まで引き摺って持ち帰り、試しに鳴らしてみたら「イノー、イノー(当時の関西弁で帰りたいの意)」と鐘が響いたように聞こえたので、ブチ切れた弁慶が谷底に放り投げて捨ててしまった、というユニークなエピソードが付いている。
よくもまあそんな状況から元あった所まで戻ってきたなと思うのだが、その弁慶の怪力エピソードに因んで作られたお菓子が大津名物の三井寺力餅で、びわ湖浜大津駅の近くにお店があるのでぜひ食べてみて欲しい。
試しに1セット買って食べたが程よい甘さと意外な柔らかさでとても美味しかった。
ただ1セットでは弁慶のような力持ちにはなれなかったので、100セットくらい買うと梵鐘を引き摺りまわすような怪力を得られるかもしれない。
そんな与太話満載の三井寺を後にして、また石坂線に乗ったら、大津市街を縫うように抜けて終点の石山寺駅へ。
このお寺はとっっっても庭が美しい。
古くからの人工物と樹木や草花が見事に調和している。かの紫式部が源氏物語の着想を得たり、枕草子や更級日記にも石山寺が登場したりするなど文学と非常に縁深い場所であるが、その史実を裏付けるような美しさである。もし自分が平安貴族だったらこのお寺で確実に三首は詠んだだろう。
実は三井寺を出た頃には雨が降り始めていて、梅雨だから仕方ないやと思いつつも何となくテンションが下降気味だったのだが、石山寺はその雨すらも心地良く感じさせてくれるようだった。心の中に静かに感動が広がっていくのが実感できる空間だった。
京都も含めてこの辺は本当に重文だとか国宝クラスの文化財がゴロゴロ転がっていて、そりゃ日本を訪れる外国人観光客が関東より関西へ訪れたいと思うのも納得だよなぁ、と思う。
石山寺を出たら、さっきよりも雨が強くなってきた気がするけど、気にせず参りませう。
石山寺駅まで戻って、石坂線にひと駅乗ると、唐橋前駅に着く。そこから駅名の由来となっている瀬田の唐橋までは徒歩5分。
琵琶湖を渡る船は強風で遅れがちだから、遠回りでも橋渡ったほうが確実だよね、という後世まで通じるありがたい教えとして「急がば回れ」ということわざが生まれた地である。
それはそうと、雨でだいぶ靴ん中がぐしょぐしょになり、テンションが地の底に着きそうになってしまったので、雨宿り兼昼食として、滋賀のローカルチェーン店で有名な「ちゃんぽん亭総本家」の近江ちゃんぽんをいただくことに。
長崎のちゃんぽんとは、まずスープが違う。豚骨ではなく和風だしを使っていて、あっさり風。麺は太麺ではなく普通の中華麺を使用していて、具材も肉とたっぷりの野菜が基本。
シンプルな味だけど、食べ応えがあってとてもうまい。
半袖でこちらへ来たらことのほか寒く、雨に濡れて冷たくなった身体に染み渡る温かく優しい味だった。
あと接客してくれた研修中の新人さんの、まだぎこちなくも一生懸命な営業スマイルも印象的だった。
これは東京にも欲しい!と思ったら既に数店舗出店していたので、今度行ってみようかな。
美味しいもの食べてお腹も機嫌も回復したので、今回の旅行の最後の訪問地、近江神宮へ。
競技かるたの聖地と言われ、あの人気漫画「ちはやふる」の舞台となった神社である。
である、といま断定調で書いたけど、実際に足を運ぶまでそのことをつゆも思い出さずに、やたら映画のポスター貼ってあるな、と思っていたら映画のロケ地としてもバッチリ使われていた場所で、一応映画を観ていた僕は「ここかるた部が整列してた場所だ!」とか「松岡茉優が登ってきた階段だ!」と気づいてひとりはしゃいでいた。
思わぬところで聖地巡礼。帰ったらDVD借りて見返さなくては。
楽しい時間は過ぎるのがあっという間だったけど、ブログにするとかなり盛りだくさんな1泊3日だった。
そこから家に帰るまでの道のりは気分が沈みがちだけど、それを見越して帰京のための交通手段は新幹線。しかも生まれて初めての東海道新幹線のグリーン車である。
流石にのぞみの正規運賃でグリーン車に乗れるほど僕はブルジョワジーではないけど、「ぷらっとこだま」というJR東海が出しているこだま限定の旅行プランを使うことで、普通車は正規運賃よりもかなり割安に、しかもそれにプラス1500円(京都〜東京の場合)でグリーン車へアップグレードできる。
勿論こだまなので東京まで3時間半くらい掛かるから、時間が何より大事な方にはオススメできないけど、新幹線に乗ること自体が楽しいアトラクションの僕にとってはむしろ大歓迎。何てったってグリーン車ですもの。
京都駅の構内で、晩御飯用の駅弁を買い込み、ホームに登ってワクワクしながら待っていると、やって来たのは285km/hで走るカモノハシこと700系電車。JR西日本所属の車両である。
JR東海の700系は2019年度での引退が決まっているけど、JR西日本所属の700系の行方はどうなるんだろうか。気になるところである。
早速車内へ入ると感じるのは車内照明の暗さ。暖色系の明かりで完全に睡眠を誘発してきているとしか思えないが、各座席には読書灯があるので手元は明るくすることができる。
シートは写真だとかなり黒っぽく見えるが、実際は焦げ茶色で細かい模様も入っている。
何よりこのシートピッチである。堂々の1160mmで普通車両よりも10センチ以上も広い。この10センチがどれほどの価値を持つかは乗り物マニアなら理解してくれると思う。
リクライニングは人権!とばかりに思い切り背もたれを倒しても後ろの座席への圧迫感が少ない。
フットレストもちゃんと装備されているので足場も快適だが、戻す時に足元左側のレバーを押すとかなり勢い良く戻るので、前の座席の人がいる時には配慮が必要になるかも。
そんな快適なグリーン車で、寝るなんて勿体無さ過ぎると思って頑張って起きてはみたものの、新富士から新横浜までの記憶が無いので、どうやら力尽きてしまったらしい。
新幹線は何事もなく安全運転で東京駅まで辿り着き、友人と別れそれぞれ帰宅の途について、今回の旅行は終了。
旅行へ行くと、たくさん歩いたり動いたりハプニングも起きたりするから確かに疲れは溜まるんだけど、嫌な疲れじゃなくて心地良い疲労感だから、やっぱり知らない土地やまだ見ぬ景色を見に行くのが自分は好きなんだと思う。
次はどこへ行こうかな。