【4】今さら京阪プレミアムカー乗車記
京阪電車が、有料の座席指定車両「プレミアムカー」を導入してからもうすぐ1年が経とうとしている。
導入が決まった時は「すでに転換クロスシートの豪華な座席を備えてる京阪が有料の指定席なんて」とか「関西人は倹約家(忖度表現)が多いからわざわざ指定席にお金を払わない」とか「編成の1/8が指定席になったら着席チャンスが減る"う"う"う"」みたいな批判や嘆きも散見されたような気がする。
かく言う自分も、どちらかと言えばやや懐疑的な見方をしていたけれど、蓋を開けてみれば概ね好評で当初は昼間の時間帯でも満席の列車が続出していたようだ。
僕は関東在住なのでなかなか乗る機会が無かったけど、つい先日大阪に行った時に「そういえば…」とちらっとプレミアムカーのことが頭をよぎってしまい、気づいたら別に用も無いのに京都の出町柳までのプレミアムカー券を握りしめて淀屋橋の駅で列車を待っていた。
プレミアムカーの乗車レポートは巷に溢れているけど、僕もせっかく乗ったついでに乗車記を書くことにした。
気づいたらプレミアムカー券を持っていたのであまり詳しく覚えていないけど、確か駅の有人窓口で買った気がする。自動券売機やホームで購入することはできないが、席が余っていれば車内でも購入することができる。またクレジット払いでインターネットから購入も可能である(要会員登録)。
値段は400円か500円で、淀屋橋起点で見ると樟葉までは400円、中書島から先だと500円。走行距離や地域性を考えると「だいたいこんなもんかな」と思える値段ではないだろうか。
乗ったのは17時発の特急淀屋橋行き1700号。プレミアムカーを導入してから列車の識別のために時刻と順番を組み合わせた4桁の識別番号が付けられるようになった。
京阪特急は日中なら10分ヘッドで1時間に6本あるが、そのうち4本がプレミアムカーを連結した8000系で運行される(電光掲示板などでは2扉車と案内される)。
ホームで今か今かと待っていると、上品な赤と黄色の塗装にゴールドの帯を巻いた京阪電車の花形、8000系が滑り込んでくる。この列車の進行方向前から6両目、6号車がプレミアムカーである。一見しただけで他の車両とは塗装が違い、この車両が特別車両であることが分かる。
折り返しの準備を行って、いよいよ乗車開始。
車内に入ると、まず目に入るのは漆黒を基調にシックにまとめられたデッキで、プレミアムカー専属のアテンダントさんが丁寧に挨拶をしてくれる。
ガラスのパーテーションで仕切られた客室に入ると、カーペット敷きの床に1+2の3列並びの座席が展開されている。昨今はJRのグリーン車ですら2+2の4列並びが増えているので、関東人の自分はそれだけでテンションが上がる。1人掛けの座席なら隣の客の圧迫感を受けずに済むし、もちろん1列少ないので各座席の横幅や通路幅も広くなる。
座席自体はパッと見た感じだと、東武100系スペーシアや、ひと昔前のJR北海道の電車特急のuシートみたいに、ヘッドの両側の部分がかなり盛り上がる形になっていて、これなら座っている時に両側からの視線が遮られて多少プライベートが保たれる。
シートピッチ(座席の間隔)は1020mmで、新幹線の普通車座席(1040mm)と大差無い程度。この列車の追加料金無しで乗れるほかの一般車両の座席が920mmなので、それより100mm間隔が広い。
座ってみると、座面は固過ぎず柔らか過ぎず、背もたれはやや硬めに仕上げてある。ホールド感という意味では今ひとつだが、乗車時間が1時間未満なので気にならない程度である。もちろんリクライニング機構を備えており、角度は測っていないもののJRの特急の普通車と同程度くらいは倒れる。
レッグレストやフットレストは装備されていないが、こちらも乗車時間を考慮してのことだろうか。
地味にありがたいのは肘掛けが木製やプラスチック製ではなく、ややクッション性のあるレザー張りになっていることで、肘をずっと置いていても痛みを感じることは無い。
前の座席には大型のテーブルとマガジンラック、飲み物のホルダーに上着や袋などが掛けられる収納式のフックと、標準的な装備。画像には無いがインアーム式の小さなテーブルも備えつけられている。さらに全座席にコンセントがついており、登録が必要になるが無料のWi-Fiも利用できる。
「くつろぎの空間デザイン」と謳っている通り、車内は落ち着ける空間と高級感が両立していて、かなり細部までこだわって作り込まれていることが窺える。
ひとつ残念なのは、窓割りが一致していない座席があることだろう。この車両は一般車両からの改造車であり、基礎の骨組みは工期や費用面から弄れなかったようで、旧来の一般車両のシートピッチに合わせた窓枠のままである。そのためプレミアムカーの広いシートピッチでは必然的に窓割りの合わない座席が出てくる。
窓柱の位置は公式サイトや窓口にある座席表で確認できるので、気になる方は早めに予約した方がいいだろう。
また、車内は一般車両含めトイレは無く、僕のようにトイレの間隔がやたら短い方やプレミアムカーで酒盛りしようと考えている方は予めトイレに行った方が良い(ちなみに淀屋橋駅の改札内にトイレは無く、改札外にある)。
車外から見ると窓がブラックアウトされた部分があるのでてっきりそこがトイレかと思い込んでいたが、そうではなくトランクが置ける荷物スペースと車椅子スペース、あとはアテンダントさんの詰所になっていた。
列車は淀屋橋を定刻に発車し、京橋まで各駅に停まる。乗車率は淀屋橋発車時点では2割程度だったが、京阪最多の乗降客数を誇る京橋から多くの乗客が乗り込み、座席は9割方が埋まった。
大阪市内で最も乗降客が多い京橋と、京都市内で最も乗降客が多い丹波橋はいずれも中間駅なので、こうした駅からの乗客の着席ニーズに応えている点もプレミアムカーの成功要因のひとつに思える。
14分ほど走ると、菅義偉官房長官の誤読やひらパー兄さんでお馴染み枚方の中心駅枚方市に着く。
枚方市を出ると、右に左にカーブしながら淀川の東岸側を遡上して行く。樟葉駅付近で見える淀川の景色を楽しみたいなら2人掛けの座席がおすすめである。
ところでプレミアムカーは人的サービスの面でも質が高い。
僕が乗った列車には上品な感じの女性アテンダントさんが乗務していたが、乗り降りの際には乗客への挨拶を欠かさず、走行中も小まめに通路をまわり、ひとりひとりの座席に目を配らせていてとても好感が持てる。
写真を撮るためにブラインドを弄っている時も「お閉めしましょうか」と気さくに声をかけてくれた。
他にも、アテンダントさんはプレミアムカーのグッズを販売したり、京阪の情報誌を配ったり、希望すればブランケットも貸し出ししてくれる。
ただし、飲み物や軽食などの車内販売は行われていないので注意が必要である。
たまたま京阪の他の車両にアテンダント募集の広告があったが、要項を見ると、京阪の社員ではなくANAのグループ会社である"ANAビジネスソリューション"に委託されており、その会社で接客などの研修を受けた社員さんが業務に当たっているとのことだった。なるほど、SKYTRAXで6年連続五つ星のANAの客室乗務員仕込みのサービスとあれば、満足度が高くなる訳である。
列車は56分で終点の出町柳に着く。快適な車内で過ごしているとあっと言う間に感じる。
途中ネチネチと車内の事を書いたけど、料金・設備・サービスを総合勘案するとかなり満足度は高く、流石は京阪といったところ。500円払って乗る価値は充分にあると思う。
もっとも、これらは完全に個人の感想なので、気になった方は是非一度乗車していただきたい。なお上記の内容は全て2018年7月時点のものである。
JR西日本も京阪のプレミアムカーの成功を見て、新快速への有料座席指定車両の導入を検討しているらしく、関西にも有料特急とは別の形での着席サービスの波が徐々に来ているようだ。
もともと競争の激しい関西の鉄道各社がどのようなサービスを展開していくのか、この先も目が離せない。